「『探偵物語』の松田優作」 by パウル・クレー


『ドーン』は、おかげさまで、現在3刷目です。
これまで僕の本を読んでくださってた方だけでなく、初めて手に取った方、あるいは『日蝕』で挫折して以来(!)という方にまで、着実に広がっていっていることがうれしいです。
どうも、ありがとうございます! 


日曜日、月曜日と、2社から続けて仕事場での取材の依頼があったので、前日の土曜日に軽く部屋の片づけを始めたのですが、うっかり、本やCDの暗黒地帯に手をつけてしまったために、収拾のつかない大変なことになって、丸一日を費やして掃除を終えたときには、地獄の荒行をやりとげた坊さんみたいな感じになってました。。。


僕は大体、一作小説を書き上げると、大掃除をして資料関係を箱詰めにしてから、次の仕事に取りかかるのですが、『ドーン』の脱稿から『かたちだけの愛』の連載開始まではとにかく忙しくて、それもままならなかったので、丁度いい機会でした。
部屋がスッキリすると、仕事をする気分も全然違います。


片づけているうちに、色んなものが出てきました。
そのうちのひとつがこれです。↓


f:id:keiichirohirano:20090929020649j:image


今、横須賀で展覧会をやってますが、パウル・クレーが、『探偵物語』の故松田優作さんをモデルに描いた肖像画です。。。ウソです(笑)
原題は、「Frau R. auf Reisen im Suden」となっていて、「南国旅行中のR夫人」とか、そんな感じでしょうか。
帽子を被った女性です。


数年前にベルリンの美術館で見つけて、うわっ、松田優作そっくりやなぁ、とか思って、ネタにしようと絵はがきを買ったのですが、帰国してみると、別にあんまり面白くないような気がして、ほったらかしてました。
一人旅での孤独な興奮なんて、そんなものです。
でも、久しぶりに見たらやっぱりちょっと面白いような……(笑)。

シルバーウィークって、前から言ってましたっけ?


皆さん、エンジョイされてますか?
職業柄、自分にはあんまり関係ないと思っていたのですが、関係大アリで、普段は月の後半に適当に散らばっている連載の〆切が全部前倒しになって先週に殺到して、けっこう大変でした。
おかげで新聞連載の原稿が進まなかったので、この数日、集中してやってます。


民主党の政策の中でも、高速道路の無料化はあまり支持されていませんけど、結局あれも、ヨーロッパでの例に倣った発想で、国家戦略室もイギリスの内閣を模したものですし、そういう意味では、日本は未だに「普請中」なのかなと、改めて感じました。
1,000円でさえこれだけ渋滞しているんだから、無料になったらエラいことだと言われますが、料金所のブースが取り払われて、あそこでの減速と一旦停止がなくなれば、渋滞緩和にちょっと効果がある気はしますけどね。


そういえば、グーグルが「インスタント出版機」向けに200万冊分の著作権切れの本のデータを提供するというニュースが出てました。ソースは、sanspo.comです(笑) http://www.sanspo.com/shakai/news/090918/sha0909182352018-n1.htm


『決壊』や『ドーン』を書いたあとで、『ウェブ人間論』を振りかえると、少なくとも僕の発言部分は、ネットの世界で当時起こっていたことに対する単純な無知に起因する箇所も結構あって、あの時点ではアレで精一杯だったという感じです。
他方、ネット空間を「公的領域」として考えるだとか、アイデンティティの側面からプログについて考えるだとかは、その後、ネットについて考えていく上で、間違った着眼ではなかったと思います。


あの本の中で、紙の本がなくなるかどうかという議論をして、僕の方が「無くなる」という立場だったことが、当時は意外なこととして受け止められました。この点に関しては、僕は今でも、基本的には考えが変わっていません。出版業界のビジネスの問題をより深く知るようになって、余計にそう思うようになりました。もちろん、かなり長期的に見てということで、本も本屋さんも好きですから、そうなってもらっては困るんですが、新刊本はともかく、版権切れのものについてはスピードが早いんじゃないでしょうか。


最近、WIRED VISIONで紹介されていた、開発中のこの読書端末なんて、http://wiredvision.jp/news/200909/2009090920.html 結構、良さそうで、僕は、ケータイやDSといった既存の端末にガジェットとして読書機能が付加されていく一方で、意外と早く、本はデータのやりとりへと移行していくんじゃないかという気がしています。よく紙だと線が引けるとか、端を折れるとかいいますけど、そういう紙の本ならではの利点を、全部電子端末に盛り込めば、考えが変わる人は多いんじゃないでしょうか。
結局、『ウェブ人間論』でもそういう話でしたが、性能の良い端末の普及次第です。
あとは、著作権の問題ですね。

実はあの本の中で、僕はこんな事を言ってました。


「例えばですけど、紙で読むことにあえてこだわるなら、簡易製本機のようなものが普及するとか、プリンターがダウンロードした小説を、本らしく綴じられるように両面印刷してくれるといった機能を備えるようになるとかすれば、出版社から直にデータだけ買って必要な箇所だけ自分で製本して読むという時代もくるのではないか」


日本の現状はともかく、Kindleなんかが、どんどん性能が良くなっていくのを見ていて、正直、僕はこの予測はハズれたなとずっと思ってました(笑)。データで取り寄せた本を、わざわざ紙にプリントアウトするというようなレトロフューチャー的な時代はスルーされるんだろうと。
しかし、今回の報道を見ていて、よく分からなくなってきました。そういう迂路を辿る時期がしばらくはあるのかどうか。
例えばですけど、書店と出版社とのやりとりがデータになって、書店の方で必要分だけ印刷・製本するとか。。。


グーグルの本についての発想には、常に「図書館」がありますが、アメリカ社会での図書館の存在の大きさは、日本とまたちょっと違う感覚だと思います。
そこそこの作家なら、全米の図書館収蔵分だけで、5000部くらいは売れると聞いたことがあります。日本ではまずあり得ないことです。

パン屋に行って思うこと


京都にいた頃によく行っていたパン屋さんは、入口のところのトレイが下向きに重ねてあったんですが、アレ、いいと思うんですよね。 
他のお店では見かけたことがないですが、丁度、出入り口で外からのホコリも相当舞ってるはずなので、下向きの方が衛生的なんじゃないかと。まぁ、そんなこと言ったら、そもそもパン自体が剥き出しのまま並んでるわけですが、入口付近と奥の棚とでは、多少違うのかなと思ってみたり。
なんか、神経質な人みたいですけど(笑)、気分的な問題です。
トレイが取りにくいとか、苦情が出ますかね? 個人的には、それは気になりませんでしたが。

ピエール・エルメに褒められた。


「WWD」(9/14,21合併号)を読んでいたら、最近のギャルブームについての特集が組まれていて、その中に、「30代でも、40代でも、自分がギャルだと思っていれば、みんなギャル」(「ハピーナッツ」編集長)というコメントがあって、なんか、サミュエル・ウルマンの『青春 YOUTH』という詩を思い出しました。
企業の偉い人とかが、よく好きな詩としてあげる「青春とは人生の一時期のことではなく心のあり方のことだ」という例のアレですが。この詩の「青春」、「若さ」という語句のところを全部、「ギャル」に置き換えれば、そのままover 20のギャルたちの座右の詩になりそうです。


そういえば、この『青春』という詩は、僕の高校の校長が好きで、学校の廊下に額に入れて飾ってあって、朝礼で生徒に読み聞かせたりしてたんですが、みんな「青春」真っ盛りでしたから、そんなこと、今言われても……と、当惑気味でした(笑)。
まだ飾ってあるのかな?


全然、話は変わりますが、11日にピエール・エルメのプレス向けの新作発表会というのがニューオータニであって、僕も関係者に招待してもらって行ってきました。
ご本人も来日されてて、少し立ち話をしたんですが、実は以前に「日経トレンディネット」で書いていたエルメについての記事 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20080130/1006600/ を広報の人が事前に一部翻訳していて、


「お前は俺のお菓子のことがよく分かってる!」(意訳)


と褒められました(笑)。vousと言ってたので、「お前」じゃないでしょうけど、まぁ、雰囲気的にはそんな感じです。甘党冥利に尽きるというか、光栄なことです。
谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の羊羹の件を引用して、エルメのマカロンについて書いたのですが、彼は実は谷崎のファンだそうで、『陰翳礼讃』も読んでいて、どうもその辺がお気に召したみたいです。


ムッシュー・エルメは、世界一のパティシエになるというのは、こういうことなのかと、非常にリアリティのある体型で(笑)、糖尿病とかになったらどうするんだろうと、つい、余計な心配をしてしまいました。
恰幅が良いだけじゃなくて、さすがに堂々としてましたね。
2、3日、ちょっと体調を崩してたのですが、試食でたくさんマカロンとか、焼き菓子とか食べてたら、元気になりました。
さすがにどれも、おいしかったです。

1TD=46,755平方メートル


マイケル・ジャクソンが埋葬される墓地は、東京ドーム20数個分なんだそうですが、この「東京ドーム何個分」というのは、いつから慣用的に用いられるようになったんですかね?
具体的なようで、実際にイメージ出来る人は、どれくらいいるんでしょう?
ダンス☆マンの替え歌(←なつかしい)で、「東京ドーム1個分ってどんくらい?」というのがありましたけど、調べてみたら、46,755平方メートルなんだとか。意外と狭いような、広いような、それすら分かりません。


いっそ、1TD(いちとうきょうどーむ)=46,755平方メートルという単位にしてしまったらどうかと思ったのですが、wikipediaには、既に「東京ドーム(単位)」という項目がありました。


数万人単位の人を収容できる大会場に行くと、広さもさることながら、統計上の人間の数の具体的なイメージが掴めるようになります。
さいたまスーパーアリーナで格闘技の試合を見ていると、来場者数の発表で、「2万人」とかいう数字を耳にするのですが、会場を見回すと、ああ、2万人ってこういう「量」の人間なのかと、ものすごくよく分かります。


本が2万部売れるというのは、これだけの数の人が読んでくれるということなのかとか、戦争の犠牲者の数が2万人とかいうと、これだけの人が死ぬということなのかとか、数字が急にリアルに感じられてきます。
『ドーン』では、マジソン・スクエア・ガーデンの収容人数を戦争の犠牲者数と対比する場面を書きましたが。


ところで、その『ドーン』で、ドゥマゴ文学賞を受賞しました。
渋谷で大きな広告が出るそうです。
これを機に、また一人でも多くの人に読んでいただければ幸いです。


選挙は予想通りの結果でしたけど、320議席に届かなかったのは良かったんじゃないですかね?
僕は二大政党制はベストではないけれど、現実的にはやむを得ないと思っていて、ただ政府は今回みたいに、大政党+小党の連立という形が良いんじゃないかと思っています。小党がどういう党かというのは非常に重要ですが。


今回民主党が大勝した(自民党が大敗した)要因は複合的で、あげだしたらきりがないですけど、民主党が、選挙の当事者でありながら、「政権交代可能な二大政党制の実現」という、メタレヴェルのメッセージを同時に発し続けたのは、やっぱり大きかったと思います。そうしたシステムの実現に参加したい人は、民主党に入れざるを得ないわけですから。
ここらで、与党がダメなときには野党に交代という仕組みを作っておかないと、将来が危ういというのは、有権者の生存本能じゃないでしょうか。よいプレイヤーが活躍できるためには、システムそのものを適正化すべきだという感覚は、今の世の中、強くなってきていると思います。


財源問題が議論になればなるほど、結局のところ、ギリギリまで無駄をカットしてみて、日本には今、どれくらいの金があるのか、一度はっきり知りたい気持ちにさせられました。
その不透明感を払拭したいというだけでも、政権交代を支持するのには十分な理由で、ネットでマニフェストを配信できないというお粗末な現状のせいもありますが、本当のところ、マニフェストをしっかり読んで投票した人は少ないんじゃないですかね。


いずれにせよ、参議院選が近いというのはいいことで、民主党も一生懸命やるでしょう。多分。

清澄白河にMJ降臨


東京都現代美術館に行く途中、清澄白河の商店街でばったり遭遇したマイケル・ジャクソンと羽根の生えた黒い天使です。羽根はもしかして、後ろの壁の落書きだったかもしれませんが。


f:id:keiichirohirano:20090823152724j:image


かかしなんだそうです。
もしこれを作った人が、マイケルが映画『ウィズ』のかかし役でクィンシー・ジョーンズと出会ったことを念頭に置いていたとすれば、相当ヤルな、という感じですが、どうなんでしょう(笑)?


men.style.comを見てたら、マイケルの最後のO2アリーナでのライヴの衣装は、ジバンシーのリッカルド・ティッシが手がける予定だったんだそうです。彼は、レディースの方を着ていて、それで気に入ったんだとか。「REMEMBER THE TIME」のPVでも、スカートみたいな、それっぽい衣装を着てるので、マイケルがテッシが今やってることを気に入るというのは、よく分かる気がしますが、個人的には騒がれたほどSS-FW09のコレクションはいいと思えなかったので、そうなのかぁという感じでした。
まぁ、でも、今ジバンシーに目が向くというのは、マイケルは最後までズレてなかったんだなという感じがします。というか、この80年代リヴァイヴァルの渦中で、今こそ彼の趣味がヨシとされるお膳立ては整っていたはずですが。
残念なことです。


09年のコレクションは全般的に素晴らしく良いんですが(例外はありますけど)、日本にいると、ビジネス的には、本当に厳しいんだろうなという感じをヒシヒシと受けます。
アパレル業界の内圧がリアルクローズ路線を推し進めたあと、ファスト・ファッションの大波にまで飲み込まれそうになって、慌てて今シーズンは、クーチュールでもストリートでも良いから、とにかく原点に立ち返って、モードのアイデンティティを再確認しようというのが共通した課題だったと思います。
その雰囲気を作ったのは、モード誌でしょう。リアルクローズなんか写真にとっても面白くもなんともないし、あの業界は業界で、モードのカルチャーに対する責任感もプライドもあるんだと思います。
それが結局は、ビジネスとして成功しなかったという結論になった時が本当に恐いです。
実際、なんといっても服はアートと違って薄利多売ですから、マス・コンシューマーが、H&Mで十分だとか、ジル・サンダーのユニクロは、期待以上にかっこよかったとなると、モード史的な観点から、今シーズンのコレクションがどんなに素晴らしかったかというような話は、どうでもいい、となってしまうでしょう。
これは実は、我が身に引き寄せて考えれば、出版業界(文芸編集者、批評家)と小説家との間に容易に起こりうる事態です。


グッチは、トム・フォードで復活できたのに、オリヴィエ・ティスケンスのニナリッチではそれが難しかったというのは、よくよく考えるべきことだと思います。
80'Sの解釈という意味ではバルマンが騒がれたシーズンでしたけど、個人的にはニナリッチの方がすごかったと思います。ティスケンスが、才能溢れる新人として期待されていたまさにその時に、ロシャスがつぶれ、あの業界の人は、それを象徴的な出来事として本当にガッカリしてましたが、今回のニナリッチでの契約解除は、なんかそのダメを押したというか、つくづく気の毒な人だなという感じがします。

地震とたんこぶ、その他


静岡の地震で、本の下敷きになって亡くなった方がいるようですが、人ごとではありません。
僕の仕事机の隣の本棚は、かなり大きいのですが、マンションの上層階だけに、地震になるとかなり揺れます。
で、いつもつい手で押さえようとするんですが、これで済まずに、続けてとんでもなく大きな揺れが来たら、下敷きになるかもしれない、と不安になります。


先日の静岡の地震の時には東京もかなり揺れたのですが、整理の悪い僕の本棚からも本が何冊か落ちてきて、そのうち一冊が頭を直撃。。。しかも、運の悪いことに、韓国語版の『葬送』の下巻で、これがとんでもなく分厚いんですが、おかげでまだこぶが出来てます。
一瞬、切れたんじゃないかと思うくらい痛くて、さわってみたら血も出てないし、安心したんですが、風呂に入って頭を洗おうと手でガッと擦ったら、ボコッと腫れてて、泣きそうでした。
腫れは今は大分、治まりましたけど。


『葬送』で思い出しましたが、19世紀の超絶技巧ピアニストで、ショパンの友人だったアルカンは、最後は本棚の下敷きになって死んだという話が残っています。信憑性には疑問もあるようですが。
日本みたいに地震もないですし、何だったんでしょう?
『葬送』は、本筋には必ずしも関係のない細かな話も色々と含まれているのですが、たとえば、アルカンなんかのCDを持っている人が、作中でちらっと彼の話が出てくる場面に出くわして、「おっ!」と思うような面白みのために、あえてカットしすぎないようにしました。
フランス革命に関心のある人は、ドラクロワやその愛人のフォルジェ男爵夫人の家系の話のあたりに、マニアックな発見があるかもしれません。


さて、それはそうと、告知なんですが、来週の金曜日(21日)の19:00から、青山ブックセンターで、「ミニトーク&サイン会」があります。詳細はこちらをどうぞ。


http://www.aoyamabc.co.jp/10/10_200908/20090821dawn.html


これは、今、「Fashion Series」という連載ページを持っている女性誌『FRaU』の企画で、『ドーン』についてだけでなく、小説について、本について、僕が最近考えていることなんかをお話しようと思ってます。
読書に興味のある方は、ぜひお越しください。質疑応答の時間もありますよ。


そういえば今日、神宮のバッティングセンターでホームランを打ちました(笑)
「8月にホームランを打った人」という張り紙に載っている「8/14 平野啓一郎 新宿区」というのは、ズバリ、僕のことです。打った球は、ヤクルト五十嵐の渾身の(?)120kmのストレートでした。
気持ちよかったなぁ。。。