新作長篇小説『かたちだけの愛』は、12月10日刊行です!

早いものでもう師走です。
今年は、ショパン生誕200年、三島由紀夫没後40年ということで、敬愛する二人の芸術家に関する仕事に多く携わりましたが、もちろん、本業をおろそかにしていたわけではありません。
その成果が、12月10日に刊行される『かたちだけの愛』です。


かたちだけの愛

かたちだけの愛


この小説は読売新聞の夕刊に昨年の夏から一年弱に亘って連載されたもので、単行本化にあたっては、大幅に改稿しました。連載をお読み下さっていた方は、その変化に驚かれると思います。もちろん、格段に良くなっています。


今回の小説のテーマは、ズバリ「愛」です。
愛とは、結局のところ、何なのか?
現代人が信じることの出来る愛とは、どういうかたちのものなのか?
  

物語は、交通事故で片足を切断した女優と、たまたまその現場に遭遇し、彼女のために、「本物の足以上に美しい義足」を作ろうとするデザイナーとの関係を中心に展開します。
彼らに関わる多くの人物たちが、歪なものから健気なものまで、醜いものから美しいものまで、様々なかたちの愛を生きています。


作者として、一番力を入れたのは、もちろん「恋愛」であり、もう一つは「親子愛」です。
主人公が最後に辿り着く心境は、そのいずれであっても当てはまるような、愛のひとつの定義です。それは、『決壊』、『ドーン』を経て、この数年、ずっと僕自身が考え続けてきたことであり、プロセスはものすごく複雑でしたが、導き出された答えは、非常にシンプルなものです。


『決壊』執筆後、「じゃあ、一体、どうやって生きていけばいいのか?」という声は、多くの読者から寄せられました。
それは、僕自身にとっても深刻な課題であり、『ドーン』では、個人のアイデンティティの問題を考え、この『かたちだけの愛』では、人と人とが共に生きていくこと、愛し合うことの意味を考えました。
「分人」という発想が、やはり一つのきっかけになっていますので、『ドーン』を読まれてない方は、昨年10月11日のプログの後半部分をご一読いただけると、わかりやすいと思います。http://d.hatena.ne.jp/keiichirohirano/20091011 
僕の第三期の仕事は、『決壊』、『ドーン』、『かたちだけの愛』で一区切りついた感じですが、あえてまとめるなら、「分人主義三部作」ということになるのかもしれません。次作の準備は既に進めていますが、それはまた、新しい段階です。


この「愛」の物語を下支えしているのは、「デザイン」の話です。主人公の職業であり、昨今、あらゆる場面で使用されている(されすぎている?)言葉ですが、その発想は、人間の体について、モノとの関係について、人と人との関係について考える上で、多くのヒントを与えてくれます。小説自体のデザインにも、今回は特に気をつかいました。
00年代はネットの世界が飛躍的に発展した時代でしたが、その反動というか、この作品では、もう一度、フィジカルな、目で見て、手で触れられる世界に関心が向いています。


そして、そのこととも関連しますが、文学としては、この作品は、三島ではなく、谷崎に多くを負っています。それもまた、「生きる」ということを考えている今の僕の一つの変化かもしれません。


色々と書きましたが、何と言っても「恋愛小説」ですから、是非その「気分」に浸って、時にささやかで、時にダイナミックな感情の動きを楽しんで下さい!


なお、この小説は、12月10日に紙の本と同時に、シャープのガラパゴスで電子書籍としても刊行されます。いよいよ、紙と電子の同時刊行時代に突入です!


最後に例によって、目次を紹介しておきます。

1 雨の中の出会い
2 “美脚の女王”
3 ミューミの理解者
4 《陰翳礼讃》
5 母と向かい合う時
6 病室での再会
7 幻痛―ファントム・ペイン
8 断端
9 普通の人間
10 不気味の谷
11 真相
12 呼び名
13 すべては憧れから
14 「天罰よ!」
15 小さな暗闇に灯る光
16 恋と愛の狭間で
17 帰郷
18 再会
19 告白
20 非常事態
21 奪還劇
22 目的は?
23 愛の秘密
24 隠されていたこと
25 軽蔑
26 Passion
27 旅立ち
28 甘美な悪夢
29 愛のかたち