『小説の読み方〜感想が語れる着眼点』刊行!


 予告していました『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP新書)の第2弾『小説の読み方〜感想が語れる着観点』が刊行されました!

 

小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)

小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)

 前半は、〈基礎編〉として、小説を読むための基本的な考え方をできるだけ簡潔に整理し、後半は、〈実践編〉として、それらを応用しつつ、具体的に作品を読んでいきます。
 今回のラインナップはこんな感じです。


ポール・オースター『幽霊たち』
綿矢りさ蹴りたい背中
ミルチャ・エリアーデ『若さなき若さ』
高橋源一郎日本文学盛衰史――本当はもっと怖い「半日」』
古井由吉『辻――「半日の花」』
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』
瀬戸内寂聴『髪――「幻」』
イアン・マキューアンアムステルダム
美嘉『恋空』


 基本的には、現在ご活躍中の作家の小説選びました。エリアーデは亡くなっていますが、『若さなき若さ』が、去年、コッポラによって映画化されたので(『コッポラの胡蝶の夢』)、例外的に取り上げました。僕が好きだから、というのもありますけど(笑)


 色々なタイプの小説を見ていきながら、こういうところに気をつけて読むと、小説はもっと深く理解できるようになる、楽しめるようになる、というのを紹介し、提案するのが今回の目的です。そして、せっかく感動したり、好きになったりした小説の話を、どうすれば、うまく人に伝えられるか、そのための整理の仕方についても、具体的に作品に即して書いてあります。ブログで書評を書いたり、人と感想を語り合ったりするのにお役に立てば幸いです。


 ケータイ小説から、翻訳小説、更には文壇の重鎮、古井由吉さんの小説まで、ヴァラエティに富んでますから、「日本語」について考えてみたいと思っている人にも、是非読んでもらいたいです。

 
 最近、一部でとんでもなく反動的な日本語論が語られていますが、僕はそういう傾向に反対です。
 近代文学を読んだ方がいいというのは、当然の話ですが、だったら、『万葉集』から現代文学まで、何でも一通り読むのが一番良いと思います。
 ただ、メディア環境の変化に応じて、日本語そのものが、今、変わりつつあるという現実を冷静に考えてみる必要があります。
 ネットの登場以来、僕たちに入手可能な情報の量は、到底、一生の間に処理しきれないほどの分量になり、しかもそれが、際限もなくデータ化されて蓄積され続けており、更にweb2.0以降は、受信者がまた発信者となって、気が遠くなるような過剰供給と過剰流動性の時代に突入しました。
 重要なのは、にもかかわらず、僕たちが情報処理に費やせる時間が、結局のところ、一日24時間、一生にしてせいぜい80年程度と、それに応じては決して「増えない」ということです。


 そのために、情報縮減メディアの必要が切実に感じられているというのが現在ですが、そうした中にあって、日本語は今、生き残りをかけて環境適応しようと、必死でその体型をスリム化させようとしています。
 言葉とは、そういう生き物だと僕は思っています。
 日本語が「やせていっている」のは事実ですが、骨と皮だけになってると考えるのは間違いです。短い時間の中で、できるだけ多くの情報を処理するために、無駄な肉を削ぎ落としていっていますが、その分、俊敏な筋肉もついていっているはずです。じゃないと、コミュニケーションが成立するはずがありません。


 この流れは、不可逆的でしょう。
 文学に関して言うならば、そうした日常語の変化を踏まえた上で、現代の「言文一致」はどうあるべきなのか。やせすぎに注意し、スピード化の中で振り落とされてしまった大切な言葉や考えを、どうすれば、今の環境の中で生かすことができるか。それが、本当に日本語について考える上で大切なことで、教育を通じて近代文学を読ませたらすべて解決というほど、状況は単純ではありません。


 今回、『恋空』のような作品が取り上げられているのを意外に感じる人もいると思いますが、『恋空』は、そういったメディアと言葉との問題を考える上で、とても興味深い小説です。そして、社会には、ああいう文体だからこそ成功したコミュニケーション空間がある、というのは、誰にも否定できない事実です。 
 僕は文学が、そういうリアリティを見失うようになったら、もう終わりだと思っています。
 その上で、個々の作品の好き嫌いは、当然あると思いますけど。 


 ……というわけで、せっかくなんで、『本の読み方 スロー・リーディングの実践』も改めてご紹介しておきます。
 未読の方は、こちらもあわせてお読みいただけると、より効果的かと(笑)
 こっちの例文は、それこそ、漱石、鴎外、三島、川端といったオーソドックスな作家のものが中心です。


本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)