オーケストラにPAはナシですか?

Bunkamuraのオーチャードールに、N響を聴きに行ってきました。
曲目は、グリーグペールギュント』の第一組曲、ロドリーゴの『アランフェス』、チャイコフスキーの交響曲6番で、『アランフェス』は、村治佳織さんをゲストに迎えての演奏でした。
村治さんとは、7、8年前に一度対談させていただいたことがあって、楽屋で久々にお目にかかったのですが、以前と変わらずチャーミングで、とても素敵な方でした。
ちょうど、その当時、『アランフェス』を録音されていたのですが、昨日も、さすがにこなれた、きめ細やかで、かつ、ウェットな重さを感じさせない演奏で、すっかり聴き入ってしまいました。


『ぺールギュント』の「山の魔王の宮殿にて」を聴きながらつくづく思ったんですが、ああいう曲では、PAを通して、ガンガン音を出した方が効果的なんじゃないですかね? これは、前々から感じていたことで、コアなクラシック・ファンからは顰蹙を買うと思いますけど、一度でいいから、打ちのめされるような凄まじい音量で、ブラームスの交響曲第1番とか、マーラーの第1番、ショスタコービッチの第10番とか、聴いてみたいです。


僕は、どんなジャンルの音楽のコンサートにも行くので、アリーナで体感するロック・コンサートの音量の快感と、どうしても、オケの音量とを比べてしまいます。もちろん、音楽の力強さが音量でないというのは当然だし、生音の良さも承知の上です。曲によって、あるいはオケによって、PAなんか通したらもったいないコンサートがあるのもよーく分かります。
が、明らかに作品が、音圧的に、なにか「凄まじいもの」を意図して書かれているのに、聴いている聴衆が、もっと「凄まじいもの」を他のジャンルの音楽で経験していて、それに比べれば、相対的に大人しいと感じてしまうような状況は、作曲家にも気の毒な感じがしますが。


オーディオ・マニアが、自宅のオーディオ・ルームで、大音量で鳴り響かせている音よりも、ライヴ会場の音の方が小さいというのは、僕は何となく腑に落ちなくて、だったら、ヘッドフォンで聴けば? というのはもっともだし、ヴィデオ・コンサートでいいんじゃないのとも言われるかもしれませんが、やっぱり、ライヴは体感したいんですよ。ドームのコンサートで、みんなモニターばっかり見ているけど、だからといって、本人がいないと困る、というように。


そうした爆音コンサートで復活できるクラシックの名曲は、あると思いますね。クラシックに関心のない、若い人でも、単純に、気持ちいいと感じるんじゃないでしょうか?


もちろん、すべてのオケがPAを通した方がいいなんて思いませんし、そうなるはずもないですが、財政難に喘いでいる地方のオケが、そういうことを企画して、ソリストの指元なんかをモニターで大きく映し出すような演出上の工夫をしたりするなら、僕は聴きに行きたいですけどね。


『アランフェス』でも、ギターは、広い会場では、どうしてもローがカットされてしまいますし、早いパッセージの本当に繊細なタッチを聴き取ろうとすると、けっこう辛かったです。


僕は、パコ・デ・ルシアの『アランフェス』が大好きで、彼のコンサートには何度も行ってますが、パコが世界的にブレイクするのに、PAは絶対欠かせなかったと思います。『アランフェス』では使ってないでしょうけど、会場で聴くとどうなんですかね? 僕は、リヴァーブが結構深めにかかったPAで、指で弦がこすれる音まで拾って、会場中に響き渡る彼の演奏に、いつも恍惚となります。