『かたちだけの愛』


暑いですね。
先日は、『ドーン』のサイン会でたくさんの方にお目にかかれてうれしかったです。
その時に、意外に多くの方から、「ブログを楽しみにしています」と言われて、ああ、このブログは読まれているのかと妙に実感しました。で、「もっと頻繁に更新します」などと言ってはみたものの、一週間経って、ようやく着手したという有様です。人はなかなか変われないものです。


『ドーン』も刊行されて、今度は何にそんなにフーフー言っているのかというと、7月22日から読売新聞の夕刊で開始された連載小説『かたちだけの愛』の執筆です。
以前にこのブログで、小説の舞台の候補を募集したのですが、それがこの作品です。冒頭は南青山四丁目での出来事なのですが、これからの展開で、教えていただいた場所も何ヶ所か出てきます。
どこでしょう(笑)? すでに取材も済ませてあります。


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かなり今更感のある写真ですが(↓)、実はこの連載、例の日食、いや、「日蝕」の日から開始されました。


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よく撮れてますねぇ。記念に保存しておきます。
このタイミング、狙ってやったとすれば大したものですが、僕の前に連載されていた伊坂幸太郎さんの『SOSの猿』が丁度完結したという、完全な偶然です(笑) 伊坂さんが絶妙なアシストで、ドラマチックな連載開始の舞台を準備してくださったと勝手に解釈して、それを無駄にしないようにがんばりたいと思っています。


内容の予告はこちらに出ています。↓


http://info.yomiuri.co.jp/release/200907169573-1.htm


挿絵と題字はイラストレーターのオカダミカさんで、実はまだお目にかかったことがないのですが、作品を拝見して、どっかで見たことがあるなぁと思っていたら、「高鈴」のアルバム・ジャケットでした。
高鈴」は、京都発の男女二人組の音楽ユニットで、向こうはご存じないと思いますが、僕は京都時代の友達の友達ということで、ヴォーカルの山本高稲さんのことは、一方的に知ってます(笑)
美しい世界なので、チェックしてみてください。
これまた偶然なのですが、世の中狭いなとつくづく思いました。


『ドーン』を読んだ方から、うれしい感想を色々と伺ってます。
作家冥利に尽きます。盛り沢山な世界ですから、人によって反応する箇所は違いますが、「キャラを演じるのではなく、ディヴを生きる」という考え方にピンと来たという声が多いです。


『ドーン』の中の世界観のひとつとして、僕は「分人主義 dividualism(ディヴィジュアリズム)」というアイディアを提唱しました。「個人 インディヴィジュアル」が単位の世界から、「分人 ディヴィジュアル(ディヴ)」が単位の世界へ、という発想の転換で、そこに「愛」の問題や「人生の選択」といった問題が関わってきます。
小説を読んでいただくのが一番ですが、既にブログなどでこの考え方についての感想を書いてくださっている方もいらっしゃるので、興味のある方は参考にされてください。


「自分とは何か?」というアイデンティティの問題は、僕にとって、長年のテーマでした。
デビュー作の『日蝕』で、「聖性と日常性」を通じてそれを考え始めたあと、
「外的世界と内的世界」(『一月物語』)
「無数のキャラと唯一の性格」(『最後の変身』)
「顔と匿名性」(『顔のない裸体たち』)
「あるべき自己像と否定されるべき自己像」(「『フェカンにて』)
「情報と情報源」(『決壊』)
と、時間をかけて、色々なかたちで、ああでもない、こうでもないと、考えてきたのですが、「個人と分人」(『ドーン』)という発想は、今の僕にとって一番しっくりくる「自分」についての考え方で、興味を持ってくれる人も多いです。


自分の仕事の大まかな分け方としては、


・『日蝕』から『葬送』までが第一期(ロマンチック)
・『高瀬川』から『あなたが、いなかった、あなた』までが第二期(短篇期)
・『決壊』・『ドーン』・『かたちだけの愛』は、第三期(長篇期)


だと思っています。
第二期の仕事は、よく分からないと言われることが多いですが、逆に第三期から振り返ってもらえると、ああ、そういうことをしようとしていたのかと理解してもらえるかもしれません。


僕の小説をまだ読んだことがない人は、読みやすい第三期から手をつけてもらうのが良いかなと思ったりしますが、長さが気にならないなら、『葬送』は好きだと言ってくれる人が多い小説です。来年はショパン生誕200周年ですし、よきタイミングかと(笑)。まあ、でも、作品毎にかなり毛色が違いますので、好みによりますね。
そのうち、HPの方で、その辺の相関図を整理しようと思っています。