「体が資本」は、心許ないですよ、そりゃ。


WBCの代表選考で、落合監督がこんなことを言っていますが、まったく正しいと思いますね。


http://www.sanspo.com/baseball/news/081123/bsc0811230508001-n1.htm


プロ野球選手は、「健康な体」という、いかにも頼りない「資本」一つを頼りに、長くてもせいぜい20年間、ヘタすると来年は無職、というような環境で仕事をしているわけですから、彼らが個人事業主とは言え、実質、「ケガして休んだらクビ」的な労働者としての権利を主張すれば、当然、消費者(ファン)、雇用者(球団)、業界(日本プロ野球機構)と対立する要求が出てくるのも当たり前の話で、それが怪しからんというのは、「たかが選手」発言と同じです。あとは、そこからいかに両者をすりあわせた制度設計をするか、という問題でしょう。
WBCの場合、体という選手のその唯一の「資本」に対する元本保証がまったくないわけですから、来年1年はおろか、ヘタすると選手生命を賭けてでも投資するかどうかは、まったく以て本人次第です。
落合監督も言っている通り、強制力を伴うことまで含めて合意された事項ならしょうがないですけど(彼だって、人一倍コンプライアンスの人なんですから)、そもそも参加自由なんだから、健康だったとしても、家族サービスを優先させて、温泉旅行を理由に代表辞退したって良いんですよ、それは。めんどくさいだっていいと思いますし。
もちろん、そういう選手は嫌いだとか、残念だと思ったとか、そう考えるのもまたファンの自由です。


落合が嫌いだという人が世の中にたくさんいるのはよーく知ってますし、落合なんか、プロ野球界からいなくなればいいのにと思っている人もいると思いますが、好き嫌いは別として、実際、彼が今回、こういう問題を提起しなかったら、誰が言ってたんですかね? こういう役目を、彼がいなくなったあと、誰が引き継ぐんでしょうか? そのことこそ問題です。古田だとするなら、選挙なんかに出させずに、プロ野球界に是非とも止まってもらった方がいいでしょう。
僕は落合ファンですが、ファンだから彼の意見に賛同するんじゃなくて、賛同するからファンなんです。
まぁ、個人的に知っているわけではないですから、結局は、アンチと同様、メディアを通じて見ている彼を判断しているに過ぎないのですが。それが実像と必ずしも合致しないことは、逆の立場で僕自身も経験していることです。


僕は、今回の一件を見ていて、ニーチェが『この人を見よ』の中で書いている、「オレ流ケンカ四箇条」(笑)を思い出しました。


第一に、わたしは勝ち誇っているような事柄だけを攻撃する。(以下略)


第二に、わたしはわたしの同盟者が見つかりそうもない事柄、わたしが孤立し、わたしだけが危険にさらされるであろうような事柄だけを攻撃する。わたしは、わたしを危険にさらさないような攻撃は、公の場において一度として行ったことがない。これが、行動の正しさを判定するわたしの基準である。


第三に、わたしは決して個人を攻撃しない、個人をただ強力な拡大鏡のように利用するばかりである。(以下略)


第四に、わたしは、個人的な不和の影などはいっさい帯びず、いやな目にあったというような背後の因果関係がまったくない、そういう対象だけを攻撃する。(以下略)

手塚富雄


まぁ、もし、ニーチェが現代の日本に生きていて、ブログなんか書いてたら、連日連夜、大炎上でしょうけど(笑)、こういう考えの彼は偉いし、本当に強い人間だと思いますね。


時代も変わって、ネットが登場したからには、同盟者がまったくいないというような事柄も滅多になくなったとは思いますが。